パーソナリティおよび行動の障がい

1.パーソナリティ障がいと精神医学

 パーソナリティ障がいとは気質や性格に著しい偏りがみられ、一般の人にはみられない考えや行動をとるため、生活や仕事に支障をきたし、社会不適応状態が持続している状態をいう。パーソナリティとは気質(生まれながらの遺伝的な、あるいは器質的なその人のありよう)と性格(気質の心理社会的な側面)とを合わせもった概念である。多くは青年期までにその特徴が明らかになる。また生涯持続する。
 DSM-Ⅳ-TRによると「その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った内的体験や行動」が続いていて周囲の人々や社会が悩んで、(あるいは本人が悩んで)はじめてパーソナリティ障がいと診断される。当然、何をもって著しい偏りなのか、時代や文化、社会的体制によって左右される。パーソナリティ障がいの概念や診断は、本人のためというよりは、社会や集団の秩序の安定のために、当人を排除する目的で使用されがちである。精神医学の目的は精神病を治療することであって、精神病とはいえないパーソナリティ障がいへの対応には消極的な精神科医も多い。しかし、パーソナリティ障がいに付随するうつ衝動性亢進などの精神病的な症状に対して投薬治療認知行動療法を行うこと、さらに周囲の人々に対して環境調節や対応法をアドバイスすることは、本人の利益になり、精神医学の領分といえるであろう。

 

2.パーソナリティ障がいの分類

 ICD-10ではパーソナリティ障がいを、統合失調症気分障がいと並列して、一つの疾患群としている(他の精神疾患との併記は許される)。一方、DSM-Ⅳ-TRでは代表的な精神疾患分類のⅠ軸ではなく、Ⅱ軸に記載する。臨床的な治療対象となるⅠ軸の疾患(例えば気分障がい)の背景にあるパーソナリティの問題を、Ⅱ軸として診断する事ができる。
 このDSM-Ⅳ-TRでは、パーソナリティ障がいを対人関係や感情のあり方によって、奇妙で風変わりなA群(内向的で社会から孤立し引きこもる傾向の強いもの)、演技的で移り気なB群(情緒が不安定で、一見外交的にみえるが、他者との安定した関係性が築けないもの)、不安や抑制を伴うC群(自信がなく、不安げで内向的、臆病で精神症性障がいの様相を呈するもの)とに分けている。この分類によって以下に述べる。
 パーソナリティ障がいを病理水準の側面から分類すると、精神病水準神経症水準、正常範囲と分けられる。しかし精神病との、あるいは正常との区分は不明瞭で難しい。それぞれのパーソナリティ障がいが一般人口のどのくらいの割合にみられうるのか、アメリカでの疫学調査における有病率を記載し、理解の助けとしたい。

 

3.社会から孤立しひきこもるタイプ(A群)

妄想性パーソナリティ障がい

 他人に対する不信があり、すべてを悪意があると疑う。例えば、他人が自分をだましている、自分を利用していると一方的な被害的な意味づけをする。配偶者に対しては、浮気をしているのではないかと執拗に疑い続ける。周囲の人の親切や誠実さにも、裏があるとの疑惑をもつ。したがって自分の事を話すことを非常に警戒する。協調性に乏しいため親しい友達や知人はいない。人に裏切られたと感じ、うらみを持ち続けるので、しばしば攻撃的になる。トラブルはすべて他人の責任だと思い込み、好訴的で、独りよがりな解釈によって訴訟を起こす。有病率は0.5~2.5%である。
 妄想性障がいとの違いは、この妄想性パーソナリティ障がいでは固定した妄想をもっていないこと、幻聴や思考障がいを認めないことにある。

統合失調質(シゾイド)パーソナリティ障がい

 家族を含めた他人と情緒的な交流をせず、関わり合いを避け、社会的な引きこもりを一生続ける。温かい人間的な触れ合いには不快感を示す。感情の表出は乏しく、生き生きとした様子がなく、周囲の人は感情の平板さを感じる。無関心、疎通性の乏しさ、自閉傾向が目立ち、統合失調症単純型に類似の状態である。もっとも、自我障がいや社会生活の破綻は統合失調症者ほどではない。有病率は7.5%である。
 同じく引きこもりを特徴とする回避性パーソナリティ障がいでは、他人との交流をむしろ望んでいるのに対して、この統合失調質パーソナリティ障がいでは一人での行動や生活を好む。

統合失調症型パーソナリティ障がい

 奇妙で風変わりな風貌、思考、行動をとる。他人に対する被害関係的な思考パターン、テレパシーや超能力、魔術などへの強い関心がみられ、独特の信念をもち生活している。話の内容がまとまりなく、体験したものに対する奇妙な意味づけをし、幻覚ともとれる発言もあるが、統合失調症のようには持続しない。また被害関係的な様子も、統合失調症にみられる関係妄想のように明確で確固とまでには至らず、関係念慮の範囲である。
 もっとも、この統合失調症パーソナリティ障がいと統合失調症との区別はしばしば難しい。ICD-10では、離人体験や自己親和的な(本人は当たり前のことと感じていて困っていない)自生思考も症状の一つととり、統合失調症型障がいとして精神障がいの項目に入れている。有病率は3%である。

 

4.情緒が不安定・攻撃的で安定した関係が築けないタイプ(B群)

反社会性(非社会的)パーソナリティ障がい

 他人に対する共感性がなく、衝動にまかせて無責任に行動するパーソナリティの障がいをいう。他人の気持ちを想像することがなく、罪悪感もなく、些細なことに激怒し、喧嘩や暴力、器物破損を繰り返す。ただ単に衝動的で行動が粗雑というだけでなく、他人に対する共感性を欠如していることが、この障がいの特徴である。社会規範を守れず、窃盗や薬物乱用を平気で行う。責任感がなく、就労を継続することができない。極めて自己中心的で支配的である。
 DSM-Ⅳ-TRの診断基準では、15歳以前にすでに反社会的行動が現れ、素行(行為)障がいがあったこと、を診断の要件にしている。すなわち、共感性の欠如や衝動性、易怒性は、他の精神障がいの二次的な症状として出現するのではなく、元来の素因によるものを想定している。有病率は男性3%、女性1%である。

境界性パーソナリティ障がい

境界性パーソナリティ障がいの症状

 空しさや満たされなさが根底にあり、情緒面の不安定さや行動上の激しさが目立つパーソナリティの障がいをいう。ICD-10では「情緒不安定性パーソナリティ障がいの境界型」と命名されている。初対面では一見全く問題なく、むしろ言動が魅力的にさえみえる。しかし関係性ができると、他人との適度な距離がとれず、依存と敵対、あるいは理想化とこき下ろしとの間を極端に揺れ動き、以下のような感情面の問題が明らかになる。
 感情面では、気分不快感、不安、焦燥が突発的に生じる。空虚感が満たされず、常に見捨てられ不安、不満と怒りを抱えている。経過中に抑うつ状態となり、しばしば気分障がいや神経性大食症を併発する。
 行動面では自分の怒りを麻痺させるために、あるいは操作的な行動として、手首切傷大量服薬などの自傷行動を頻回に繰り返す。したがって境界性パーソナリティ障がい者は、医療機関にてよく遭遇する。空しさが解消されず、浪費、過食、性的逸脱を繰り返す。また、激しい衝動性をもつ。他人が助けの手を差し伸べるを得なくなる状況をつくる。周囲の人は援助しようとして、本人のペースや意図に操作され、まきこまれてしまう。有病率は1~2%である。

境界性パーソナリティ障がいへの対応

 治療や援助にあたって、逆転移(本人が無意識に投げかける感情や行動に、治療者・援助者が無意識にする反応)の問題が生じる。すなわち、本人の怒りや攻撃に対して陰性逆転移が、理想化や依存に対して陽性逆転移が生じる。治療・援助側は行動化に振り回されないように、適度な距離を維持し、態度や構造を一貫したものにすることが必要である。
 具体的には、①事実関係、介入や支援の目的や目標を明確にし、限界や枠組みを設定する、②約束や対応を一貫させ、不安や依存と助長させない、③洞察を中心におくよりも、社会的技能の育成を中心におく、といった対応が安全である。ここでの社会的技能には、今の気分を言語化すること、空虚感と上手く付き合っていくこと、行動を自分でなんとか制御する工夫をみつけていくことも含まれる。

演技性パーソナリティ障がい

 一見華やかで、外交的、魅力的にみえるが、非常に自己顕示欲が強く、自分が注目の的にならないと途端に不愉快、攻撃的になるのが、演技性パーソナリティ障がいである。初対面の人とでもすぐ表面的には友達になるが、他者配慮や共感性に欠け、極めて一方的で自己中心的で、実質的な内容が言動に伴わず不誠実なため、周囲は次第に本人を相手にしなくなる。虚栄心が強く、他人から注目の的でいるために芝居がかった大げさな態度で誇張し、誘惑したり挑発したりする。怒りを周囲に向け、しばしば自傷や大量服薬など操作的な行動に至る。
 境界性パーソナリティ障がいとは違って、他人の前では安定した役割を演じることはできる。また自分に価値があるという感覚はむしろ強く、空しさを慢性的に抱えているわけではない。有病率は2~3%である。

自己愛性パーソナリティ障がい

 自分には優れた能力があるといった誇大な感覚に支配され、非常に度を越した自負心があり、周囲から賞賛や取り計らいを受けることが当然だと信じているパーソナリティの障がいをいう。その一方で、人からの評価には非常に敏感で、周囲の人の批判や現実的態度に傷つき、屈辱や羞恥を味わう。この自己愛性パーソナリティ障がい者は、他人に評価や批判される場面を恐れて、ひきこもりに至りやすい。その場合でも、自分の能力が正当に理解されていない、との気持ちが常にある。自己顕示的な欲求が強く、周囲の人たちと協調して行動することはできない。
 一般人口に対する出現割合は1%未満で少なく、ICD-10には自己愛性パーソナリティ障がいという診断名はない。しかし昨今のひきこもりの青年に多くみられ、相談機関ではよく遭遇する。境界性パーソナリティ障がいに比べると、通常は衝動性や行動化は激しくなく、まとまった自我を保っている。ただし、ひきこもりから一転して、世間をあっといわせるために、ときに重大な犯罪、社会的な逸脱行為に至る。

 

5.不安や神経症的な様相がみられるタイプ(C群)

回避性パーソナリティ障がい

 自分は他人より劣っているという自己評価の低さのため、他人から批判されたり注意を受けたり、あるいは人前で恥をかくことを極度に恐れる障がいをいう。本人は心底では他人と交流し、あるいは相互的な関係のなかにいたいと願っているが、非難されるのを恐れて対人関係を避ける。ICD-10では他人からの批判や拒絶されることへの不安が第一にあって、回避が生じると考え、不安性パーソナリティ障がいとの病名を採用している。
 実は本人の自意識が過剰で、実際のところ他人はなんとも思っていない、という客観的な認知ができない。親密な友人は少なく、傷つくのを恐れて、しばしばひきこもりに至る。日本では対人恐怖と診断される者に、しばしばこの障がいをみることができる。そのため回避性パーソナリティ障がい者は、対人恐怖、不安、抑うつを主訴として医療機関や相談機関を訪れることが多い。有病率は1~10%である。

依存性パーソナリティ障がい

 自分では何も決めることができず、行動のすべてをある特定の人からの助言なしには行えないパーソナリティの障がいをいう。自分の意思や判断が正しいか常に助言を求める。このような極端な依存の背景には、他者に見捨てられるのではないかという不安や恐怖がある。一人でいること自体も強い不安となる。
 依存している特定の人から離れることに強く抵抗を示すので、その人の愛情を得るために不本意な事も無理して行うようになる。すなわちこと依存性パーソナリティ障がいは、同じように依存が中心テーマである境界性パーソナリティ障がいとは違って、怒りや操作的な行動はなく、むしろ自分を委ねて他律的になってしまうという特徴がある。主体的な自分がいる、という感覚に乏しく、自己評価が低い人が多い。抑うつやパニック発作、心気的な訴えにより医療機関を訪れる。

強迫性パーソナリティ障がい

 度を越した秩序意識や完全主義にとらわれ、円滑な日常生活や肝心な事柄の遂行が妨げられてしまうパーソナリティの障がいをいう。臨機応変さや柔軟性を欠き、予定や順序、約束時間、規則にこだわる。結果よりも形式が重要であり、主要でないどうでもよい部分に意識が集中するので、実質的な作業が進まず、さらに完璧さを求めるあまり課題が終了しない。他人も同じレベルで作業をしないと気がすすまないので、他人と一緒に仕事をしたり、仕事を任せたりすることができない。また秩序維持のために、楽しみや人間関係を犠牲にする。お金は将来のために貯金しておくという信念をもっていることが多い。
 このような強迫性パーソナリティ障がいは、しばしば強迫性障がいの病前性格として認められる。すなわち、この障がいの経過中に強迫思考や強迫行為が顕在化して、しばしば強迫性障がいに移行する。

 

6.行動(習慣および衝動)の障がい

 自己や他人の利益を損なう行為を、合理的な動機がないのに反復してしまう病態が行動の障がいである。止めようとする意志はあっても、自分では衝動が制御できない。しばしば犯罪として明らかになる。明らかな精神症状が並存していない場合に、精神疾患として治療の対象とするか否か議論の分かれるところである。

病的賭博

 賭け事をせずにはいられない衝動を制御できず、賭博行為を頻回に反復してしまう障がいをいう。青年期に出現し持続する。賭け事をするということ自体に陶酔し嗜癖が生じ、賭けの結果が良くても悪くても、さらに賭け事への衝動が高まっていく。経済的な困窮や負債、家族関係や職場生活の崩壊にもかかわらず、賭け事を止めることができない。

病的放火

 他人の家に火をつけ燃やすという衝動を制御できない障がいをいう。通常の方かは、恨みや復讐、金銭上の理由や思想上の理由により行われるが、この病的放火では、火事を見ること自体に強い喜びを感じ、しばしば動機自体を本人も語ることができない。放火行為の直前に心地良い緊張状態となり、直後に興奮や快感を覚え、また消火活動や騒ぎを見ることに魅せられる。

病的窃盗

 窃盗それ自体に快感を覚え、衝動を制御できず窃盗を繰り返す障がいをいう。したがって、盗品が欲しいわけではなく換金の目的もない。窃盗の直前に、適度な緊張状態となり、直後に興奮や快感、満足感を覚える。経済的に困窮しているわけではない女性が一人で、同じ場所で盗んでも仕方がないようなものを繰り返し万引きする場合には、この病的窃盗の可能性がある。

抜毛症

 抜毛することで心的な満足感を得るのが抜毛症である。毛髪を引き抜くことで手応えと充実感を覚える。児童・思春期に多くみられる。このような自己破壊活動は、手首自傷症候群(繰り返しリストカットする事で、生きている手応えや心的な満足感、一時的な安心感を得る)にみられる心的機制と類似するところがある。

虚偽性障がい

 明らかな身体的・精神的な障がいや疾病がないのに、繰り返し一貫して症状を偽造する障がいをいう。具体的には、自らの身体を傷つけたり、毒物を自らに与える。理由が明らかにあり(例えば刑事訴訟や徴兵を免れるために)故意に病気であることを装うのが詐病であるのに対して、この虚偽性障がいでは動機が明らかではないという特徴がある。おそらくは病人の役を演じたいという心理的な要因があると推察される。
 手術や侵襲的な検査が必要となる愁訴、苦痛の訴えを意図的に繰り返し、身体的には正常にもかかわらず数回の(身体的には不必要な)手術を受けてしまうこともまれではない(ミュンヒハウゼン症候群)。しかし一方、他人(自分の子どもであることが多い)を傷つけ医療を受けさせ、自らが看病や介護といった役割を遂行する事によって、自身の心的な満足を得る代理ミュンヒハウゼン症候群は、虐待であってこの虚偽性障がいには該当しない。

 

新・精神保健福祉士養成講座 ~精神疾患とその治療~ (中央法規)より抜粋